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未破裂脳動脈瘤

未破裂脳動脈瘤とは

未破裂脳動脈瘤とは、脳動脈の壁に瘤(こぶ)のように膨らんだ部分があり、見つかった時点で同部から出血(破裂)の徴候がない状態のことです(図1)。脳ドックなどで頭部MRI検査を行うと、日本人では約5パーセント程度の人に見つかると言われています。つまり20人のうち誰か1人が持っているもので、決してまれなものではありません。脳動脈瘤があっても通常は無症状です。

図1

写真:未破裂脳動脈瘤、写真中央に動脈瘤が見られる
MRIで発見された未破裂脳動脈瘤

未破裂脳動脈瘤の出血率(破裂率と呼んでいます)

残念ながら、未破裂脳動脈瘤の壁は病的な構造をしているため、少ないながらも出血(破裂)する危険性を有しています。もし破裂した場合は、くも膜下出血(破裂脳動脈瘤の項をご参照下さい)や脳出血になるため、MRI検査で未破裂脳動脈瘤が見つかった患者さんは強い不安を感じることになります。しかし、多くの脳動脈瘤の破裂率は高くないため、治療を急ぐ必要はありません。この内容を、ご家族と良く読んで、担当医の話をじっくり聞いてから治療方針を決めて下さい。

関連記事:くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)

現在、当センターを含めて世界中で脳動脈瘤の破裂率についての研究が行われていますが、正確な破裂率は明らかにはなっていません。理由は、これらの研究で使用される患者さんとは別に治療されている患者さんも存在するからです。すなわち、比較的破裂の危険性が高いと考えられている患者さんの多くは治療を受けています。よって、みなさんが文献やインターネットなどで目にする破裂率とは、治療されていない患者さんの破裂率となります。

過去の当センターのデータ(2008年)では年間破裂率は0.85パーセントとなりました。つまり、当センターで治療していない患者さんが100人いたとして、1年後までに破裂する患者さんは1人未満なのです。最近の日本人のデータ(UCAS Japan:日本全体での調査)では約1パーセントとなっています。欧米からのデータ(ISUIA)では、部位や大きさにより5年間で0から50パーセントの破裂率が示されています。とくに注目されたのは、7ミリメートル未満の大きさで、かつ、ある特定の部位に発生した脳動脈瘤であれば5年間の破裂が0パーセントであったことです。このデータにより、この条件に該当する未破裂脳動脈瘤に対する治療を否定する風潮が起きました。しかし、当センターのデータ(2008年)では、同じ条件の患者さんでも年間0.3から1.3パーセントの割合で破裂していることがわかりました。また、5ミリメートル未満の小型動脈瘤を追跡した日本人のデータでも、年間0.54パーセントと報告されています。この理由は明らかではありませんが、人種の違いなどが考えられています。最初に述べたとおり、未破裂脳動脈瘤の全体としての破裂率は低いものですが、絶対安全と言い切れる脳動脈瘤もないのです。

最近の日本人のデータ(UCAS Japan:日本全体で6000人以上からの調査、2012年に発表)では全ての動脈瘤で0.95パーセントで、動脈瘤が3から4ミリメートル(1年で0.34パーセント)のものと比べ、5から6ミリメートルでは1.13倍(1年で0.50パーセント)、7から9ミリメートルで3.35倍(1年で1.69パーセント)、10から24ミリメートルで9.09倍(1年で4.37パーセント)、25ミリメートル以上では76.26倍(1年で33.40パーセント)とリスクが高くなることがわかりました。またブレブという膨らんだ場所があるものでは1.63倍、動脈瘤の場所が後交通動脈分岐部で1.90倍、前交通動脈では2.02倍のリスクになります。

他従来の研究では、2親等以内の家族歴のある方、他の破裂動脈瘤(くも膜下出血を起こした動脈瘤)に合併したもの、脳底動脈に発生した動脈瘤、形が不整形のもの、高血圧・喫煙歴、多量の飲酒のある場合、は破れやすいといわれています。なお動脈瘤が大きくなると破れ易くなり、10ミリメートル以上では10年間に55.9パーセント(10ミリメートル未満では13.9パーセント)と言う報告もあります。

未破裂脳動脈瘤のリスクとは?

これまでの研究のなかで、既往症、生活習慣、動脈瘤の大きさ、部位、形状に関しての危険が指摘されています。以下に代表的な項目を示します。

  • 性別:女性に多いと言われています
  • 既往歴:高血圧、くも膜下出血(複数個の動脈瘤があり、このうち1個が過去に破裂した患者さんのことです)
  • 生活習慣:喫煙、過度の飲酒
  • 家族歴:2親等以内にくも膜下出血になった家族がいらっしゃる方

脳動脈瘤関連

  • 部位:前交通動脈、後方循環(椎骨脳底動脈系に発生した脳動脈瘤)
  • 大きさ:大きさに比例。または経過中に増大するもの
  • 形状:不整形。ブレブ(動脈瘤の表面の小さな膨らみ)があるか、または経過中にブレブが形成されるもの
  • その他:複数の脳動脈瘤があること(多発性脳動脈瘤)

未破裂脳動脈瘤が見つかったら?

未破裂脳動脈瘤への対応は(1)経過観察、(2)開頭術(脳動脈瘤クリッピング術)、(3)血管内手術(脳動脈瘤コイル塞栓術)の3つがあります。

経過観察

未破裂脳動脈瘤が発見されて、すぐには治療を行わず、半年から1年の間隔でMRAや3D-CTAを撮影して動脈瘤に変化が無いかどうかを観察する方法です。当センターの患者さんの3人に2人は経過観察を選択されています。もちろん、観察するだけなので、その間の破裂のリスクは続きますが、もし形の変化や大きさの増大が確認できれば、その時点で治療を考慮します。検査だけなので身体への負担はほとんどありませんが、精神的には破裂の不安が続くという問題点もあります。また、高血圧の治療、禁煙、過度の飲酒を控えることは必須となります。

開頭手術(脳動脈瘤クリッピング術)

長い歴史がある治療法であり、次に述べるコイル塞栓術が発達した現在においても、最も確実な脳動脈瘤の出血予防方法です(図2,3)。皮膚を切開して頭蓋骨の一部を開放し、顕微鏡手術により脳動脈瘤の根元にクリップをかけて、脳動脈瘤への血流を遮断する手術です。ただし治療によるリスクがあるのと、全身麻酔での手術になります。傷の痛みもありますし、治療に要する入院期間も長く、約2週間かかります。社会復帰が早くなるように、散髪はごく一部のみです。治療後は特に日常生活に制限はありません(自動車の運転も可能です)。

図2

写真:脳動脈瘤の様子
手術顕微鏡でみた脳動脈瘤
写真:クリッピング術の様子

図3

写真:手術前の脳動脈瘤
手術前の3D-CT血管造影でみた脳動脈瘤
写真:手術後、消失した脳動脈瘤
クリッピング手術後、脳動脈瘤は消失している

血管内手術(脳動脈瘤コイル塞栓術)

大腿から挿入したカテーテルを、レントゲンを見ながら脳動脈瘤内に誘導して、脳動脈瘤の内部にカテーテルからプラチナ製のコイルを送り込むことで、脳動脈瘤内の血流を遮断する方法です(図4)。入院期間は数日間と短くて済み、身体への負担も小さい治療です。しかし治療のリスクは開頭クリッピング術と比較して低いとは言えず、長期の成績がわかっていないのも含め、出血予防効果は開頭クリッピングよりも低いと言えます。よって治療後も、検査や治療を定期的に行ったり、複数回の手術が必要になる場合もあります。部位や形状によっては開頭術より治療の安全性が落ちることもありますが、逆に開頭手術では困難な場所の動脈瘤でも処置が可能です。将来はコイルやカテーテルの進歩により、治療の安全性や長期成績にも改善が見込める治療法です。詳細は血管内治療のページを参照してください。

図4

写真:手術前の脳動脈瘤
手術前の脳血管撮影
写真:手術後、消失した脳動脈瘤
コイル塞栓術後、脳動脈瘤は消失している

関連記事:脳血管内治療

3つの治療方針の特徴と違い(向き・不向き)

治療方針経過観察開頭クリッピング術コイル塞栓術
破裂のリスク△(変わりない)◎(最も確実に減らす)○(減らす)
治療の侵襲性◎(無い)×(高い)△(低い)
治療のリスク◎(無い)△(ある)△(ある)
主な治療対象高齢の方
小さい動脈瘤
大きい動脈瘤
中大脳動脈瘤
血栓化動脈瘤 など
脳底動脈瘤
傍鞍部内頚動脈瘤
椎骨動脈瘤 など
将来の心配・不安△(続く)◎(最も少ない)○(再治療の必要なこともある)

未破裂脳動脈瘤の治療成績(2001年から2012年)

392例501個の治療(開頭手術374、血管内手術42)

  • 合併症:10例 2.2パーセント(嗅覚障害、視力障害、記銘力障害など)
    このうち7例は手術前と同様の生活ができています
  • 死亡:1例 0.2パーセント
  • 経過観察中の破裂49例(2001年から2018年)

未破裂脳動脈瘤の最良の治療選択は?

未破裂脳動脈瘤は、部位や大きさ、形状のどれも二つとして同じものはありません。加えて患者さんの年齢や体力、持病なども千差万別です。当センターでは未破裂脳動脈瘤がみつかった患者さんにはこれらの情報を、これまでの当センターの手術実績や最近の手術法の進歩と照らし合わせて、個々の患者さんの手術方法と手術に伴う危険性をご説明しています。長期的な出血予防効果から、当センターでは原則として開頭手術をお勧めしていますが、特に、脳動脈瘤の位置や形状、年齢や全身状態などにより、血管内手術の方が安全かつ有効に施行できる場合は血管内手術も行います。一方で、経過観察する場合のリスクについても、当センターを中心に文献上のデータも踏まえて評価しています。 当センターではこれらの情報を随時更新して、個々の患者さんに可能な限り提供します。手術の具体的な方法、危険性、治療後の見通しなどもご説明します。その上で、私たちが考える治療選択の優先順位をお示ししますが、絶対と言える選択はあり得ません。患者さんご自身やご家族で十分に時間をかけて話し合いをして、私たちも一緒に考え、納得のいく治療選択をしていただくことが最良と考えています。

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