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髄膜腫

概要

髄膜腫(ずいまくしゅ)は脳腫瘍のなかで最も多い脳腫瘍です。一般的に脳を覆うくも膜の細胞から発生し、90パーセント以上は良性腫瘍です。多くは脳実質外に存在しますが、約30パーセントは脳表面を覆う軟膜を破壊し、脳浮腫や脳内伸展を認めます。女性に多く、原因として遺伝や放射線、女性ホルモンなどの関与が示唆されていますが、多くは原因不明です。

腫瘍の生じる部位によって、様々な名称がありますが、代表的なものは円蓋部髄膜腫、傍矢静洞髄膜腫、大脳鎌髄膜腫などです。

写真1
円蓋部髄膜腫
写真2
大脳鎌髄膜腫
写真3
傍矢状洞髄膜腫
写真4
小脳橋角部髄膜腫
写真5
蝶形骨縁髄膜腫
写真6
側脳室髄膜腫
写真7
嗅窩部髄膜腫

症状

髄膜腫の生じる部位によってもことなりますが、頭蓋内圧亢進症状(腫瘍により脳の圧が上昇して起こる症状:頭痛・嘔吐・意識障害など)、腫瘍圧迫による局所症状(脳神経麻痺、痙攣(てんかん発作)、運動麻痺など)があります。

検査

CTやMRIによって診断が可能です。循環器・脳脊髄センターでは以下の診断方法を用いて確実な診断と安全な治療を目指しています。

頭部MRI

診断のためには造影剤が必要です。

写真8
T1強調画像
写真9
T2強調画像
写真10
造影

脳血管撮影

脳血管撮影は腫瘍の栄養血管や発生部位を予測するのに重要な検査です。近年では3次元CT検査にとって変わられることが多くなってきました。しかし術中に多量の出血が予測される場合には、手術に先立ち、栄養血管を塞栓することがあります。

写真11
左傍矢状洞髄膜腫
写真12
脳血管撮影(側面・塞栓術前)
写真13
脳血管撮影(側面・塞栓術後)

3次元CT検査

造影剤を用いることによって、腫瘍と正常脳組織の間のコントラストを強くし、立体的な位置関係の把握ができます。腫瘍の伸展範囲や周囲の構造物との位置関係など、手術の際に必要な情報を多数得ることができます。

写真14
右小脳橋角部髄膜腫
写真15
3DCT(右側面像)
写真16
3DCT(頭蓋骨をはずした像)

トラクトグラフィー

髄膜腫に限らず、腫瘍が運動神経と接すると予想される場合に行い、両者の位置関係を把握するのに役立てます。術前に運動神経の走行を予想することで、術中に運動神経の損傷を起こさないようにすることが可能となります。

脳腫瘍(黄矢印)、運動神経(赤矢印)を示す。

写真:トラクトグラフィー1、画像中央に脳腫瘍がある
写真:トラクトグラフィー2、運動神経の位置が強調して示されている

手術の方法とその特徴

基本的に良性腫瘍である髄膜腫は、手術にて全摘することにより治癒が期待できます。しかし全ての症例で手術が必要なわけではなく、無症状なもの、小さいものは治療の必要が無い場合も多いのが実際です。

そのなかでも手術は以下の時に適応となります。

  • 既に日常生活の妨げとなる症状が出ているとき。
  • これまでの検査で悪性型が疑われるとき。
  • 今後腫瘍が増大した際に重篤な症状が出現すると考えられるとき。
  • 脳腫瘍の性状が、今後の治療方針の決定に必要なとき。

手術の方法

手術方法には以下の2通りがあります。

開頭腫瘍摘出術

開頭(皮膚を切開し、頭蓋骨を一時的に外す)して腫瘍を摘出します。腫瘍は発生母地を含んで全摘するのが理想的です。しかし脳腫瘍の組織や発生部位(損傷すれば身体的症状が出現する部位とそうでない部位があります)により全て摘出できない場合があります。この場合術後に放射線療法などの追加治療が必要になる場合があります。一般的に全摘できなかった場合、約30%で再発すると言われています。

定位的脳腫瘍生検術

皮膚に小切開を加え、頭蓋骨に約1センチメートルの穴をあけます。そこから管を挿入し腫瘍の一部を摘出します。病理診断の結果により今後の治療方針を検討します。

手術に伴う危険と合併症

  • 手術中に出血がおこる可能性があります。
  • 術後に脳出血などが起ることがあります。この場合再手術を要することがあります。
  • 感染(髄膜炎)や痙攣などが起る場合があります。
  • 手術をした部分の皮膚がうすくなったり、一部へこんだりすることがあります。
  • 皮膚を切開した箇所に沿って、脱毛が起こることがあります(多くは一時的です)。
  • 以上のような合併症により意識障害や言語障害、半身麻痺、痺れなどが、一過性あるいは永続性に残る事があります。

術後の見通し

手術後は一週間で抜糸を行います。追加の治療やリハビリテーションが必要な場合は、術後経過を診ながら専門科への転科や専門病院への転院なども考慮します。また遅発性痙攣の可能性があるため、多くの場合、最低でも数カ月の抗痙攣薬の内服が必要になります。

ガンマナイフ治療

放射線治療の一種であるガンマナイフは、頭を切らずに治療を行うことができます。直径3センチメートル未満の腫瘍であれば、5年から10年の腫瘍制御率は90パーセント以上と良好です。しかし腫瘍縮小まで数カ月単位の時間を要するため、現在症状が出ている方には適応となりにくいのが現状です。また合併症として脳が腫れたりすることもあり、手術と比べて危険なこともあります。また腫瘍が3センチメートルを越えると治療効果が弱くなります。

関連記事:ガンマナイフセンター

当センターでの治療成績

2005年1月から2011年1月までの手術件数:63例

  • 術中死亡:0
  • 術後麻痺:5例(一過性:4例、いずれもリハビリテーションにより改善、永続性:1例)
  • 顔面神経前額枝麻痺:2例(2例とも軽快)
  • 動眼神経麻痺:1例
  • 滑車神経麻痺:2例
  • 術後出血:2例(1例は輸血、1例は経過観察)
  • 術後中耳炎:1例(内服にて改善)
  • 術後けいれん:1例(抗痙攣薬内服継続)
  • 嚥下障害:1例(リハビリテーションを行うも後遺)
  • 静脈損傷:1例(静脈再建術にて後遺症なし)
  • 高次機能障害:1例(リハビリテーション継続)

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