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脳神経病理学研究部からのお知らせ
脳に好酸球性血管炎を来した特発性好酸球増多症候群患者の臨床病理学的検討が学術雑誌Neuropathologyに掲載されました
一般に,血管炎はThe 2012 revised International Chapel Hill Consensus Conference nomenclature(CHCC2012)の臨床病理学的定義に従って分類されています。本症例報告ではCHCC2012のいずれの疾患定義にも合致しない血管炎が存在するという問題提起を含めて,分類困難な血管炎を臨床病理学的に如何に解釈するべきか議論するとともに,臨床病理学的に厳密に検討された類似症例の報告がないことや,あるとしても好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)と解釈されている可能性についても指摘しています。好酸球増多症候群で中枢神経血管炎を生じることは稀(1%程度)ですが,本症例報告を契機に類似症例の報告が蓄積され,病態解明と疾患概念確立のための研究につながることを期待しています。
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頭蓋内血管奇形に伴う大脳皮質形成異常(FCD type IIIc)に関する病理組織学的研究の成果が学術雑誌Brain Pathologyに掲載されました
脳に発生する血管奇形は脳卒中のみならず難治性てんかんの原因になることもあります。難治性てんかんに対する手術治療で切除された脳組織検体の病理組織を観察すると,血管病変に隣接する大脳皮質に組織構築異常が見つかることがあります。これを専門用語で限局性皮質異形成(FCD type IIIc)と記載するのですが,その組織構築異常の具体的特徴や発生機序,病態学的意義などについては先行研究がほとんどなく,これまで詳細は不明でした。この研究では自験例の病理組織を後方視的に検討し,FCD type IIIcの組織学的特徴の詳細を明らかにするとともに臨床病理学的にその発生機序を推論してみました。
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てんかん原性脳病変の病理組織像から結節性硬化症が疑われ遺伝子検査で確定診断に至った症例の報告が学術雑誌Neuropathologyに掲載されました
結節性硬化症の皮質結節(TSC-tuber)と限局性皮質異形成(FCD Type IIb)は組織学的に類似点が多く両者を正確に鑑別するのは困難とされていますが,AIを応用した最近の国際共同研究から両者の鑑別に有用な組織学的特徴も抽出されています(Kubach J et al., Epilepsia 61: 421-432, 2020)。このことについては前回ご紹介しました。
今回報告した論文では,提示症例をもとにTSC-tuberとFCD Type IIbの組織学的相違点を文献的考察を含めて整理するとともに,てんかん外科組織マイクロアレイ(63例,420コアを含む)を用いたスクリーニングによってCD34 class IIという造血幹細胞マーカーを発現するアストロサイト様細胞がTSC-tuberで豊富かつ高頻度に出現することがFCD Type IIbとの相違点の一つであることを示し,CD34 class II免疫組織化学が両者の鑑別に有用であることを初めて指摘しました。
結節性硬化症は全身の様々な臓器に先天性の良性腫瘍を生じる常染色体優性遺伝性疾患です。多くの場合,出生時には皮膚の白斑(約100%)が見られ,胎生期から乳児期に発見される心臓腫瘍(約60%),乳幼児期にはじまるてんかん発作(約80%),自閉症,精神発達遅滞,顔面の血管線維腫,脳腫瘍,小児期以降の腎臓腫瘍,成人期以降の肺や消化管などを含む各種内臓器の腫瘍など,さまざまな症状があらわれます。しかしながら,これらの症状は出現時期も程度もさまざまですので,症状が少なくて臨床的診断基準を満たさない患者さんもいます。そのような場合でも手術検体の病理所見から結節性硬化症の可能性を指摘することで,その後の正確な早期診断と適切な医学的管理につながることもあります。したがって「TSC-tuberを疑う病理所見」は臨床診断基準の補遺に匹敵する項目として役立つと思われます。
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結節性硬化症の皮質結節(TSC-tuber)と限局性皮質異形成(FCD Type llb)をHE染色標本で見分けるAIの開発に関する国際共同研究の成果が学術雑誌Epilepsiaに掲載されました
TSC-tuberとFCD Type llbは組織学的に類似点が多いため両者を正確に鑑別するのは困難とされています。それぞれ20例(合計40例)のHE染色標本をバーチャルスライド上に確定診断を伏せた状態でランダムに並び替え,これらを専門的知識を有する神経病理医11名が鑑別したところ平均正答率は72.3%でした。これは神経病理未経験者(病理レジデントや医学生など)12名の平均正答率43.8%に比して当然高い結果ですがAIに深層学習させて鑑別診断させたところ正答率は91%でした。逆に,AIがどのような特徴を鑑別点として認識しているのかを解析したところ,我々があまり注目していなかった形態学的特徴がいくつか抽出されました。それらを利用して我々人間があらためて鑑別診断したところ,神経病理医の正答率は76.5%(わずか約4%向上),未経験者の正答率は69.2%(なんと25.4%も向上)となりました。TSC-tuberとFCD Type llbをHE染色標本で見分けるコツをAIから教えて頂きました。
ちなみに,論文のタイトルにある「same same but different」とは「似ているが違う」という意味のタイ英語です。
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Dual pathologyにおける海馬硬化症の形成機序とてんかん原性獲得機序を臨床病理学的に考察した症例報告が学術雑誌Neuropathologyに掲載されました
海馬病変の解析では須藤冴子(特任研究員),側頭葉新皮質病変の解析では桑重はる香(特任研究員)がそれぞれ大活躍
第60回日本神経病理学会総会学術研究会(2019年7月14日〜16日,名古屋市)で須藤冴子(特任研究員,発表当時は秋田大学医学部5年)を筆頭演者とする症例報告「脳腫瘍治療後のグリア瘢痕と海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんの1手術例」(優秀学生ポスター賞)に若干の追加検討を加えまとめたものです
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低血糖による大脳新皮質障害と炎症反応の経時的変化に関する共同研究が学術雑誌Neuropathologyに掲載されました
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ヒト側頭葉てんかん患者の海馬における神経新生に関する共同研究が科学雑誌Scientific Reportsに掲載されました
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徳武新之介(特任研究員)が 脳アミロイド血管症の一剖検例を報告
徳武新之介(特任研究員)が東北神経病理研究会(2019年10月26日)で脳アミロイド血管症の一剖検例を報告しました。
総説「脳卒中における血管壁の病理」が画像診断9月号(2019年8月25日発行)に掲載されました
良質な光沢紙を使った雑誌なので写真がよく映えます。詳しくは画像診断 39(10): 1108-1121, 2019にて是非ご覧ください。
須藤冴子(特任研究員)が優秀学生ポスター賞受賞
第60回日本神経病理学会総会学術研究会(2019年7月14日から16日 名古屋市)で須藤冴子(特任研究員,秋田大学医学部5年)を筆頭演者とする症例報告「脳膿瘍治療後のグリア瘢痕と海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんの1手術例」が優秀学生ポスター賞を受賞しました。