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もやもや病

もやもや病とは

(以下は厚生労働省の神経・筋疾患調査研究班から出されている、もやもや病の簡単な説明を改訂したものです。)

ヒトの脳は左右の内頸動脈と左右の椎骨動脈の合計4本の血管によって栄養されており、これら4本の血管は脳底部で互いに繋がって輪(ウイリス動脈輪といいます)を形成しています。この動脈輪は動脈が一本詰まっても他の血管から血液が流れこむための安全装置として働いています。モヤモヤ病とは内頚動脈が頭蓋内に入り最初に血管を分岐する直前で左右とも急速に狭窄ないしは閉塞する病気で、ウイリス動脈輪が機能せず脳血流が不足します。その結果動脈輪近傍の本来は細いはずの毛細血管が多数拡張して側副血行路を形成し脳血流を維持しようとします。血管撮影検査などでこれらの毛細血管が立ちのぼる煙のようにもやもやと見えるためこの病気がモヤモヤ病と名づけられました。

写真:正常の血管ともやもや血管の比較

この病気の患者さんは アジア系民族に多く、日本は最多で約3900人(平成17年全国調査)、ついで韓国が約300人と報告されています。好発年齢は二峰性を示し、5歳を中心とする小児型の高い山と30から40歳を中心とする成人の低い山とされます。男女比は1:1.8と女性優位です。

この病気の原因はわかっていませんが、約10パーセントの患者さんに家族例が認められ、多因子遺伝が疑われています。

この病気は脳の必要血流量が保たれなくなったときに症状を出す脳虚血型と、出血型に二分され、少数ですが痙攣発作が主症状のてんかん型、手足の不規則な動きを主症状とする不随意運動型、頭痛型、無症状型に分けられます。脳虚血型は吹奏楽器を吹く、熱い物を吹きさましながら食べる、啼泣などの過呼吸運動によって手足の脱力、言語障害、意識障害などを呈し、数分で治まる一過性脳虚血発作である場合と症状が残る脳梗塞とがあります。また出血型は小児では稀で、成人になると半数近くに達します。出血の部位、程度により症状は様々ですが一般に重篤で頭痛、麻痺などにとどまる場合から命に関わる場合まであります。

写真:もやもや血管の様子1、虚血型、多発性の脳梗塞をおこす
写真:もやもや血管の様子1、出血型、脳内に出血をおこす

この病気には、内科的治療としては脳虚血型やてんかん型モヤモヤ病に対して脳血流改善剤や抗てんかん剤がそれぞれ投与されます。外科的治療としては脳虚血型に対する脳血管バイパス術が有効であることが知られているため広く行われています。出血型に対しては現時点で有効な治療法は残念ながらありません。脳血管バイパス術により毛細血管に対する血流負担を軽減し出血を予防できる可能性があることから、研究班では出血型モヤモヤ病に対して脳血管バイパス術に再出血予防効果があるかどうか、手術群と非手術群を比較する多施設間共同研究を2001年から開始し現在も継続中です。

治療がされない場合、 脳虚血型では虚血発作が反復するにつれ麻痺や知能障害が増悪していく例が見られ、小児例では発見時にすでに重度の脳梗塞に陥り予後が悪い場合があります。そのため脳虚血型では症状が悪化固定する前にバイパス手術を施行することが好ましいと考えられます。

出血型の症状は一般に重篤で死亡例の半数は脳出血です。

手術の必要性・目的

一般に

  1. 虚血型のもやもや病の患者さん
  2. 出血型のもやもや病ですが、脳の血流が悪化している患者さん
  3. 症状が無く、偶然に発見されたものの、脳の血流が悪化している患者さんが、手術治療の対象になり、脳血管バイパス術という治療を行います。

この治療は頭の皮膚を栄養している1から2ミリ程度の直径の血管(浅側頭動脈)を直接脳の血管につないで、血液を直ちに増やしてやる方法(直接バイパスといいます)と、脳の表面に血流の豊富な組織を接するようにしてやることで、時間がたつにつれ新しい血管が新生し、脳に入っていく血流を徐々に増やす方法(間接バイパス)があります。なおこの間接バイパスはもやもや病の場合のみ効果がある手術です。
この手術により、脳の血液の流れが改善されることにより、発作が減少し、また新たに起こる脳梗塞や今後の知能障害出現を予防できることが期待できます。

手術の方法

我々の行っているPAN(パン)synangiosis(シナンジオーシス)という手術方法をご紹介します。

手術はまず耳の前から上がっていく頭の皮膚を栄養している浅側頭動脈という血管をはがします。開頭により、つまっている血管の末梢である中大脳動脈、前大脳動脈という脳の血管を露出し、先ほどはがした浅側頭動脈を中大脳動脈や前大脳動脈に直接つなぎます。また同時に血流の豊富な組織である耳の前の筋肉(側頭筋)や、脳をつつむ膜(硬膜)、皮膚の下の筋肉の膜(帽状腱膜)に細工を加え、脳に接着させます。これにより脳に不足していた血液は浅側頭動脈や脳に接着した組織から供給されるようになります。血管の切開や縫合の最後などの場合に一時的に脳への血流を止める必要がありますが、短時間ですので、通常問題にはなりません。

イラスト:手術の概要

手術に伴う危険と合併症

  • 急激に脳への血液の流れかたが変化する事により、また貧血になることなどにより、脳梗塞が起る危険があります。脳梗塞を起こすと、言語障害や、半身麻痺、痺れなどが、一過性あるいは永続性に残る事があります。麻酔中に脳の血流が減少し、脳梗塞を起こすこともあります。特に血行再建を行った脳に充分な血液が流れるようになるのは術後1から3カ月してからなので、その間は注意が必要です。小児の場合は術後に泣いたり・過呼吸になったりするために脳梗塞を起こす場合があります。
  • 両方に病気があり、片方の手術を行った場合、反対側の血管の状態が悪化し、症状を出す場合があります(その場合には治療が必要になります)。
  • バイパスからの血液が流れ過ぎるようになって、手術直後~2週間以内に痙攣や意識障害、言語障害や、半身麻痺、痺れなどが出現し、一過性あるいは永続性に残る事があります。またまれに脳に出血がおこる事もあります。
  • 感染(髄膜炎)や痙攣などが起る場合があります。
  • まれに脳の血流が改善しないことがあり、再手術を要することがあります。
  • 頭の皮膚の血流が悪化しますので、一部血管をはがした部分の皮膚の状態が悪くなったり、脱毛が発生する事があります。手術をした部分の皮膚がうすくなったり、一部へこんだりすることがあります。また手術をした部分が痛んだりする事があります。
  • 頭の後ろの方の血管(後大脳動脈)も病変に侵され、症状が出たり血流が悪くなった場合は、後頭部に新たな手術を追加する必要があることがあります。
  • 予測できない合併症がおこることがあります。

術後の見通し

直接バイパスからは手術直後から血流が入り、間接バイパスからは1から3カ月くらいかけて血管の新生が起こります。このため直後から発作が消えたり、発作の回数が減少し、半年くらいで発作が無くなるのが一般的です。頭痛なども良くなることが多いのですが、脳梗塞が既におきている場合にはバイパスをしてもそれによる症状が改善することは期待できません。

その後は発作の様子を見ながら普通の生活やスポーツ(水泳以外)もできるようになります。

反対側の手術は経過観察になるか引き続き必要かどちらかです。手術後2から3週間で退院できます。術後3カ月後くらいに脳血管の検査(血管撮影)をします。

当センターでの治療成績

2007年から2010年に9例11側のもやもや病患者さんを経験しました。

合併症は脳梗塞0,広範な皮膚障害0,感染0、ですが術後硬膜下血腫1例(死亡)となっています。

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